自由な感性でものづくりをする作家と、産地に根づいた技術を受け継ぐ職人がコラボレートし、東西、和洋、古今、伝統とコンテンポラリーをむすび、新たな風を生み出していくCOCHI。ガラス作家 原 光弘さんに「ENISHI|縁」制作の裏側、もの作りへの思いを伺いました。
― デザインに込めた思い
「ENISHI|縁」は、私のガラス作品に越前漆器の蒔絵職人が黒漆を施したシリーズです。COCHIのその他の器シリーズと調和する大小のワイングラス、サイズ違いのプレート、ボウルを揃えました。ワイングラスは、私の作品の中でも定番の「マーガレット」というタンブラーにステムをつけたデザイン。プレートは、普段作っているもののサイズを変えて高台をつけました。ボウルは、見込みを少し深くして、料理だけでなく、花を生けて飾っても綺麗なものになっています。どれもCOCHIのために生まれた、新しいかたちです。
― 器作りの際に気をつけていること
伸びやかなフォルムが自分の作品の特徴です。宙吹きガラスは、高温に熱したガラスに吹き竿を通して息を吹き込みながらかたちづくるという工程上、制作中、常に手を動かさなくてはなりません。熱々のガラスは、温度が下がるにつれて刻々と状態が変わりますから、一瞬、一瞬の判断が勝負。まるで生き物を扱っているかのようです。作るこちらがガラスに合わせなければ、いうことを聞いてくれません。その代わり、特性を理解して向き合えば、なんともいえない美しさを見せてくれます。私は、ガラス自身がどんな動きをしたいのかを見ています。ガラスが遊んでくれるさまを受け止めるんです。そうすると、自然に波打ったり、思いもよらない光のゆらめきを見せてくれます。
― 制作の際に大変だったことや気をつけたこと
COCHIのブランドコンセプトやおもにオンラインで販売することを考えると、かたちやサイズを揃えることが求められます。しかし、私はガラスの動きを大切に作っているので、全く同じものを複数作ることは、正直難しいのです。そこで、隣り合って並べた時に高さや直径ができるだけ揃うよう整えつつも、ガラス特有のゆらぎを損なわないようある程度ランダムな部分も残しながら制作しました。愛着を持ってもらえる特別な器になったと思います。
― どのように使ってもらいたいですか?
毎日臆せず使ってもらえるものでありたいと思っています。よく使うということは、破損のリスクもありますが、割れてしまったとしても、もう一回欲しいと思ってもらえるものでありたいと思います。そのためには、本当に使い心地のよいものでなければいけません。私の作品は「ガラスなのに冷たくない、むしろ温かみがあって陶器とも合わせやすい」と言っていただくことがあります。フォルムに角ばったところがほとんどなく丸く柔らかいことと、厚みがあることが、そう感じさせるのかもしれません。お客様の使い方を垣間見る機会があるのですが、発想の自由さに驚きます。飲料だけでなく、スイーツやスープなども素敵に盛り付けてくださっているのを見ると、ガラスは、夏だけのものではないのだなと実感します。「縁|ENISHI」は、食事のシーンでも、お酒をいただく時間帯にも映える器です。ライフスタイルにあわせて一年を通して愛用していただけたら嬉しいですね。
― COCHIからの依頼を受け、どう感じましたか?
いつもひとりで制作しているので、COCHIのディレクションのもとアイデアをいただき、デザインやサイズの微調整を重ね、理想のかたちに近づけていく作業は新鮮でした。私が普段作っているものより軽く、すっきりしたものになっているのではないかと思います。蒔絵の職人さんとのコラボレートによりほどこされた黒漆は、器の外側にむけてグラデーションを描くというとても高度な技が加えられています。作家と職人の仕事が出合うことで、温かみだけでなく、クールさも持ち合わせた器になりました。
― ものづくりを始めたきっかけ
きっかけといえば、北海道との出会いが大きいかもしれません。私は高校を卒業して就職をしたのですが、すぐに辞めてしまって。行く先々で住み込みのアルバイトをしながら、オートバイで日本全国を旅していた時期がありました。いろいろな人に会い、さまざまな仕事を経験するうちに、会社員ではなく手に職をつけたいと思うようになりました。北海道が好きでした。北海道にはガラス工芸で有名な小樽があります。縁あってガラススタジオで雇ってもらえたので、そのまま6年間、ガラス製品を制作する傍ら、自分の作品も作るようになりました。その後、札幌で5年を経て独立し、実家のある大阪に戻って工房を開きました。
― 1日の中で(もしくは、ものづくりをする中で)大切にしている時間
仕事を終えて自宅に帰り、食事をしながらお酒を飲む時間ですね。自作の「ウェーブタンブラー」を愛用しています。350ml缶のビールがちょうど入る容量を意識して作った作品です。ガラスのゆらぎを楽しみながらお酒をいただく時間は、一日頑張ったご褒美ですね。格別です。