自由な感性でものづくりをする作家と、産地に根づいた技術を受け継ぐ職人がコラボレートし、東西、和洋、古今、伝統とコンテンポラリーをむすび、新たな風を生み出していくCOCHI。陶芸家 水野 幸一さんに「 KANADE|奏」制作の裏側、もの作りへの思いを伺いました。
― デザインに込めた思い
「KANADE|奏」は、サイズも用途も違う5種の器をセットにしたシリーズです。箱から出して食卓に並べるだけで、器の組み合わせに悩むことなく簡単に、華やかな食卓を演出できるように組み立てました。
セットにはまず、どんなシチュエーションでも使いやすいお皿が2種入っています。ひとつはフラットプレート。縁が立っているので、クリーム系のパスタやカレーもすくいやすいと思います。もうひとつのリムプレートは、幅のある縁のおかげで美しく盛り付けることができます。ボウルは、お茶碗より少し大きくしました。このボウルさえあれば、スープもご飯も小どんぶりも楽しめますし、フルーツヨーグルトやグラノーラやシリアルもたっぷり入ります。一日の中のいろいろなシーンで使える器です。大、小のリムボウルは、リムプレートと同様、少量盛り付けるだけでなんとも美味しそうに見える、魔法の器。
リムのある器が奏でる余白とささやかな緊張感、その強弱が食卓に心地よいリズム感をもたらすのではないでしょうか。ご自宅使いに取り入れやすい白と黒を中心に、ブロンズ、グレー、ターコイズなどファッショナブルな色展開です。光沢を抑えることで、コンテンポラリーな雰囲気になるように釉薬を調合しました。衣食住にまつわるすべてのもののデザインや色、質感にこだわりのある方に、自分らしい選択の一つとして「KANADE|奏」の器を選んでいただけたら嬉しいですね。
― 器作りの際に気をつけていること
日本で、その時々の食生活に寄り添うかたちや、持った時に軽やかさを感じる重量感、お料理を盛り付けた際に一層美味しそうに見える器の素材感や色調などを意識しながら、制作しています。ひとくちに家庭料理といっても、和食、洋食、中華、エスニック料理などさまざまな献立や食べ方のスタイルがありますよね。僕は料理をすることが好きなのですが、レパートリーが増えるにつれて、それぞれの料理にあった心地いい器のサイズ感が変わることに気づいて。従来の和食器だと少し小さく、洋食器だと大きすぎると感じることもよくありました。それがきっかけで、いまは和食器と洋食器のあいだをいく、現代に合う新しいサイズ感を追求しています。
― 制作の際に大変だったことや気をつけたこと
私の手作りの器の質感を、機械を用いた生産や職人の均一な手仕事を貫く窯元で形にすることは、挑戦の連続でした。土や釉薬についての検討はもちろんのこと、玉縁(口縁に微細な丸みを持たせること)をつけて陰影を出したり、生地に削りを入れて手ざわりを強調するなど、土の器らしさを感じられるように、何度も対話を重ねて、やっといいものができました。
― どのように使ってもらいたいですか?
土の器に初めてトライする方でも、緊張せず楽しく使っていただけるようにと願いながら制作しましたので、これまで「陶器はちょっと心配……」と思っていた方にも気軽に使っていただきたいですね。フラットプレートやリムプレートは、料理を盛り付けるとグッと素敵に見えますし、ワンプレートディッシュとして、野菜もお肉もグラタンも彩り豊かにのせると、特に盛り映えがしますので、一人暮らしの方にも、便利に使いまわしていただけると思います。忙しくて料理をする時間がなく、デリやお惣菜をテイクアウトすることも多いと思います。買ってきたものでも、温めて陶器に移して食べるだけでリラックスできますよね。そんなふうに食事の時間がちょっと豊かになるような使い方をしていただけたらと思います。
― COCHIからの依頼を受け、どう感じましたか?
COCHIは、作家と職人のコラボレーションにより、手作りの器の魅力をプロダクトとして表現し、より多くの人の食卓を豊かにしようというプロジェクトです。作家が生活を楽しくするために考えた素材のいかし方やデザインを、量産品の精密な造りと融合させることは簡単ではなかったですが面白く、勉強になることも多かったです。例えば、ペアマグのボディのカーブは、僕の手仕事では、もっと甘いラインになってしまうと思うんです。均整のとれた職人仕事と融合したことで、僕が思い描いたデザインが、より精巧に、使いやすく表現できたと思います。
― ものづくりを始めたきっかけ
陶器の産地で生まれ育ち、陶芸は家業でもあったので、自然と器づくりに携わることになりました。うちでは代々伝統的な染付や上絵の施された和食器などを制作をしていたのですが、若かったこともあって、僕自身の生活ではあまり使わないものでもありました。北欧などのシンプルなデザインの家具やプロダクトに興味があり、自分で何かを作るなら毎日使っても飽きのこないシンプルでモダンなものを作ってみたいと思うようになったんだと思います。デンマークに留学して暮らしながら、北欧のデザインを感じてきました。その時の体験が、いまの器づくりに生きています。
― 1日の中で(もしくは、ものづくりをする中で)大切にしている時間
フルーツタルトやケーキなどお菓子作りをする時間が気分転換にもなり楽しいのですが、そのおかげですっかり太ってしまったので、最近は毎朝自転車で15〜20km走って汗を流すことも、リフレッシュのひとつになっています。