自由な感性でものづくりをする作家と、産地に根づいた技術を受け継ぐ職人がコラボレートし、東西、和洋、古今、伝統とコンテンポラリーをむすび、新たな風を生み出していくCOCHI。陶芸作家 田中 雅文さんに「SOU|層」制作の裏側、もの作りへの思いを伺いました。
― デザインに込めた思い
「SOU|層」は、Layer seriesをもとにしています。この器の特徴は、二つのパーツを上下に組み合わせ、内側が空洞になっている点です。
通常、ロクロや手びねり技法では、器の外側や内側など様々な部分から成形し、美しいフォルムを目指しますが、僕が使用する石膏型による排泥鋳込の技法では、量産という大きなメリットがある一方で、外側からしか成型できず内側に凹凸が生じたり、不要な溝ができてしまうというデメリットがあります。
この問題を解消するために、二つのパーツを別々に制作し組み合わせる方法を考案したことが、Layer series誕生のきっかけとなりました。
当時は、二つのパーツを作るために倍の手間がかかることや、接続部分の難しさなどから、この方法を用いている人は多くはありませんでした。試行錯誤を重ねるなかで、空洞を生かした形状や美しく見えるパーツの位置を模索しながら、このLayer seriesは少しずつかたちになっていきました。
さらに、釉薬で生地を接着する釉着という技法は、元々、立体作品に取り入れていた方法を器に展開したものです。立体と器の両方の作品を発表していくなかで、技法が徐々にリンクし始め、今では一人のものづくりとして様々な方向から表現することができるようになってきたのかなと思っています。
田中雅文 作品画像 National flag series JAPAN H240×W260×D280(mm) 2013.02.10
田中雅文 作品画像 Toy Blocks H340×W530×D450(mm) 2010. 08
― 器作りの際に気をつけていること
立体と器の両方から表現を模索する中で、立体よりも器の方が何倍も難しいと感じています。立体作品は自由に観賞し様々なかたちで楽しむことができますが、器はそれに加えて使う目的があり、料理を引き立てるフォルムや大切な食事の時間に溶け込み共存する役割が求められます。また日本には食事の際に器を持ち上げる特有の文化がありますが、軽さや持ちやすさ、口当たりといった作法に対する機能性も器づくりの大切な要素です。
料理との相性や使いやすさを意識する一方で、こんな器があったらどうなるだろう…とチャレンジしたい部分もあります。
例えば、「Cloud」と名付けた器のシリーズでは、使い方が分からなくなるぐらいに挑戦的なフォルムを目指しましたが、プロの料理人の方から「料理を盛ってみたい」という感想をいただき、レストランなど多くの皆様にご使用いただくロングセラーの作品となりました。
今回の「SOU|層」もそんな風に感じていただけたらとても嬉しいです。
―制作の際に大変だったことや気をつけたこと
個人の制作では、デザインと制作を一人で行うためトータルでバランスが取れることがありますが、工場では複数の人が関わるため、一つ工程が増えるごとにコストが発生し、その管理が難しいことを実感し、大変勉強になりました。
また量産の現場では沢山のプロジェクトの中で、実現性の高いフォルムが現在に残っているように感じます。今回も当初は、この一定の条件のもと作り方を模索しましたが、最終的にはその枠を飛び越えてチャレンジしていただけたことで作品が完成し、とてもいい経験になりました。
― どのように使ってもらいたいですか?
器の中が空洞になっていることは外観からは分かりません。でも実際に使ってみると見た目よりも軽いことや、二層構造による断熱性など、使ってみた人にしか分からない魅力がある器だと思います。団欒の時間に溶け込みながら、会話のきっかけになるような器であればと願っています。
― COCHIからの依頼を受け、どう感じましたか?
以前から自分がデザインしたものをどこかで作っていただけたらいいなと思っていたので、今回のお話には好奇心を持ってお引き受けしました。
しかし、自分がデザインした作品を自分以外の方が作るということが初めてだったため、どのようになるのか分かりませんでしたが、とてもいい経験になりました。
また窯元の方がとても熱意をもって協力していただき、完成まで進めていただけたことに本当に感謝しています。
― 1日の中で(もしくは、ものづくりをする中で)大切にしている時間
何よりも作品を作る時間を大切にしています。有意義な時間を生み出すためにはいくつものハードルがありますが、自分のやりたいことを納得するまでできるということは、最も贅沢な時間だと思います。
また大阪芸術大学で陶芸の授業を担当していますが、学生たちと作品について真剣に語り合ったり、学生が失敗を繰り返しながら成長していく姿に刺激を受けたりすることも、自分一人の制作では経験できない大切な時間だと思っています。
授業では学生に、「僕が今日話すことは昨日までのことであり、明日あなたが新しいことを発見するかもしれません。」と、偉そうなことを言っていますが、そんなことを真剣に考えることができる時間がこれからも続いていくように自分自身も頑張っていきたいと思います。