vol.7「SOU|層」の生産者、肥前吉田焼の窯元: 辻 諭さんインタビュー

2025/02/28
by 日本 太郎
自由な感性でものづくりをする作家と、産地に根づいた技術を受け継ぐ職人がコラボレートし、東西、和洋、古今、伝統とコンテンポラリーをむすび、新たな風を生み出していくCOCHI。「SOU|層」の生産者である、肥前吉田焼の窯元224 porcelain 代表: 辻 諭さんに制作の裏側、もの作りへの思いを伺いました。



肥前吉田焼の歴史について

佐賀県嬉野市、嬉野温泉街からほど近くの吉田地区。佐賀県と長崎県にまたがるこのエリアはかつて肥前(ひぜん)と呼ばれ、今も多くの窯元が存在しています。最初に磁器が作られたのは有田ですが、江戸時代から鍋島藩主の奨励によって陶磁器の産地として栄えてきました。 吉田の土はあまり良くないため、1710年頃に熊本の天草陶石に切り替わりましたが、吉田での使用が最初です。現在では佐賀・長崎で焼かれる磁器は天草陶石を用いています。

佐賀県で焼かれる磁器は、かつて鍋島藩であったため「有田焼」と呼ばれ、吉田で焼かれる磁器も有田焼として世に出ています。また、産地が小さいため、吉田の焼き物は、有田や波佐見の問屋を経由して流通するなかで有田焼というシールが貼られることもあります。言い換えると、有田焼でもあり吉田焼でもありますが、土、上薬、焼き方などを含め、伊万里も波佐見も同じものです。

高度経済成長期は作ればものが売れる時代で、吉田焼も産地全体で平成元年頃が売上のピークでした。しかし、現在はその売上が8分の1まで落ち込み、窯元の数も今は10を下回っています。 そんな吉田焼の現状に危機感を抱きつつ、今の時代を生きる陶工としてやるべきことは何かに向き合い、昔はできなかったが今はできることに挑戦しています。

例えば、素材一つを取っても、直火が可能な耐熱磁器や、光が透ける透光性の磁器、多孔質のフレグランス用素材など、技術革新によって新しい素材が生まれています。また、224porcelainの特徴として、3Dを使ったデジタルデザインと伝統工芸の融合にも取り組んでいます。焼き物の世界は技術革新があまり起きていないため、今の時代を生きる陶工として新しいことにチャレンジしたいと思っています。



COCHIの商品について

最初にいただいたサンプルを見た際、同じ磁器でも焼き方や焼成が異なるため、このままでは生産が難しいと感じました。そのため、裏面を変更するディスカッションをさせていただきました。また、作家が拘られているラインなどは平面図だと伝わりにくいのですが、3Dデータを用いたやりとりができたことで、より正確に再現することができたのは非常に良かったです。やはり二重構造のため手間はかかりますが、市場に出ているものとは明確に差別化できる新しいアイテムになっていると思います。


窯元を始めたきっかけ

170年続く窯元に生まれ、6代目の父のもとで10年間修行をし、2012年に32歳で独立しました。焼き物の世界は、人間国宝の美術工芸の世界から、作家、民芸クラフトの方、そして私たちのようなプロダクトデザインに携わる人まで、同じ土で同じ焼き方をしているにもかかわらず、表現の幅が広く、それが面白さでもあります。私は有田のコンテストで受賞した経験もありますが、20代のときに何者になるかを非常に悩んでいました。そして、29歳の時にニューヨーク近代美術館を訪れ、パーマネントコレクションを見て大きな衝撃を受け、ここに展示してもらいたいという目標ができ、プロダクトデザインの道を進む決意をしました。

元々、実家は染付や赤絵を得意とする窯でしたが、自分が作りたいものを作ると、実家のオリジナリティを壊しているという感覚がありました。そこで、「やるなら自分のブランドで」という思いが強まり、実家を出て独立することにしました。 イタリアのALESSI(アレッシィ)というキッチン用品ブランドには多くのデザイナーが関わっていますが、ALESSIらしさがあります。私も224には複数のデザイナーが関わっていますが、すべて自分のフィルターを介して224らしさを出すことをポリシーにしています。

創業10周年の際には、佐賀県立美術館で展覧会を開催し、10年間制作してきた作品を展示することができました。自分が作りたいものを作ることが創業の理由ですが、他社からの受託案件が多く、昨年は新商品を1つしか出せていないという状況でした。



今回の依頼を受け、どう感じましたか?

難しいが何とかいけそうだという感触を持ちました。また、COCHIのコンセプトに共感できる部分がありました。私自身、世の中にはモノがあふれていて、「作る以上は、世の中にないもの、何か違うものを作りたい」と考えています。「SOU|層」のように電子レンジでの使用は難しいかもしれませんが、それ以上に欲しいと思えるものを作りたいと考えています。


制作の際に大変だったことや気をつけたこと

生地づくりが勝負であり、大変でした。接着するタイミングを合わせることが肝心であり、厚みのバランス含めて、生地の作り方と管理が最も難しかったです。



今後やってみたいこと

第二弾の取り組みとして、昨年発表した新素材「晟土」(せいど)を使っていただけると嬉しいです。この土は、佐賀県の研究機関で10年以上前に開発された強化土をベースに、様々な素材を混ぜて1年かけて開発しました。焼成時の二酸化炭素排出量を抑えるなど環境に配慮した製法であり、不良品率が一般的に10%のところ1%以下に抑えられるなど、サステナブルな素材です。できれば吉田焼全体で使用できるようにしたいと考えています。素材を有田や波佐見と変えることで差別化を図っていきたいと思っています。





SATOSHI TSUJI辻 諭

“COCHIのコンセプトに共感できる部分があり、コラボレーションを引き受けました。二重構造の器は生産に手間がかかり難しいですが、世に出ているものとは明確に異なる新しいアイテムになっていると思います”

佐賀県嬉野市の170年続く窯元に生まれ、大学卒業後、6代目の父のもとで染付や赤絵などの伝統的な技術を習得。32歳で独立し、224 porcelainを創業。長い歴史とその中で培った技術を基盤にしながら、これまでの価値観にとらわれることなく、他にはない新しいものづくりに挑戦している。

COLLECTION

SOU | 層

二つのパーツを組み合わせた二層構造の器のシリーズです。自然界には珍しい七角形と円形の組み合わせによるデザインは、料理を引き立て、日常の食卓に特別感をもたらします。

ENISHI | 縁

高温に熱したガラスに、吹き竿を通して息を吹き込み、かたちづくる宙吹きガラスは、ひとつとして同じものはなく、自然素材の漆は、経年により色ツヤが変化します。使う人それぞれの暮らしの中で美しく育っていく器です。

KASANE | 重

料理の盛り付けはもちろん、裏返してオブジェのように使ったり、ジュエリーや小物をのせたり、発想次第で用途は無限に広がります。

TSUDOI | 集

人が集い食卓を囲み、食を楽しみ、ともに時間を過ごすというかけがえのない時間を、より特別のものにしてくれます。

KANADE | 奏

音楽を奏でるように、食卓に心地いいリズムと調和をもたらします。新生活や一人暮らしのスターターセットやギフトにも最適です。

COCHI | key

毎日使いたくなる、シーンを選ばず活躍する COCHIのオリジナルシリーズです。使う人のことを思い丁寧に仕上げられた器は、日々の生活に「美」を感じさせてくれます。

COCHI × TĔLOPLAN

『内なる自分を引き出す一着』として纏う戦闘着をコンセプトとしたファッションブランドTĚLOPLANとCOCHIの特別なコラボレーションアイテム。