自由な感性でものづくりをする作家と、産地に根づいた技術を受け継ぐ職人がコラボレートし、東西、和洋、古今、伝統とコンテンポラリーをむすび、新たな風を生み出していくCOCHI。陶芸家 水野 幸一さんに、シリーズ第3弾となる新作「MADOKA|円」制作の裏側と、もの作りへの思いを伺いました。
― デザインに込めた思い
今回一番意識したのは、「プレーンな土鍋」であることです。一般的な土鍋は、どうしても「水炊き」や「寄せ鍋」といった、いわゆる“鍋料理”の印象が強く、食卓で主役になりすぎてしまいます。僕は、和食だけでなく、洋風の煮込みやアジアンテイストの料理など、日常のあらゆるメニューに馴染む道具にしたかったんです。 そのため、あえて深さを抑え、カジュアルに使えるシンプルなデザインに仕上げました。鍋料理をメインにするのではなく、普段の献立の中で「スープ代わりに土鍋がある」「おかずを盛る大皿として土鍋を使う」といった楽しみ方をしてほしい。僕がイメージしているのは、まさに「鍋の向こう側」にある日常の風景です。
― 現代の暮らしに寄り添う、絶妙なサイズ感
1人用の土鍋は、とにかく「小回りの良さ」が魅力です。僕自身、昔から肉か魚、野菜など3種類ほどに具材を絞った「三品鍋」をよく楽しんでいました。生野菜だと食べ飽きてしまうこともありますが、スープ感覚で温野菜をたっぷり摂れるのがいいんです。仰々しくなく、でもただの鍋で煮るよりずっと豊かな気持ちになれる、そんな「ちょうど良さ」を追求しました。
対して1.5人用は、2人で食事を楽しむためのサイズとして作りました。2人前の本格的な土鍋だと、収納場所も取りますし、具材もたくさん用意しなければならず、どうしても鍋料理がメインになってしまいます。そうすると他のメニューを楽しめず、鍋を敬遠してしまうこともあるかと思うんです。この1.5人用なら、冷凍うどん1玉に好きな野菜やつくねを入れて、2人で分けるのにぴったりな量です。食べ飽きない量だからこそ、「明日もまたこの鍋で何か作ってみよう」と思える。そんな軽やかな使い心地を目指しました。
―機能を追求した先に宿る「直感的な美」
今回のフォルムは、機能性の追求から自然と決まっていきました。浅すぎると用途が限られ、深すぎるとスープの量が多くなりすぎてしまうため、深さと直径のバランスは特に熟考しました。コンロの火を受けた際の熱伝導の効率、具材を理想的な状態で蒸し上げる蓋の膨らみ、そして蓄熱性を高めるための底の厚みなど、細部にわたり調整を重ねています。また、コンロについても、土鍋との安定感と高い燃焼効率を両立する高さを独自に研究・設計しました。コンロは、アルコールストーブでのご使用をおすすめしています。
造形美について深く考えているわけではありませんが、「このアール(曲線)は美しいな」「取手はこのくらいがバランスがいいな」といった、自分の中の黄金比や直感を信じて、作りながらブラッシュアップしていくことが多いですね。その根底には、デンマークに留学して暮らしながら、シンプルで機能的な北欧デザインに触れ、学んだ時間が今でも生きているのだと思います。
― 制作の際に大変だったこと
一番の課題は素材選びでした。今回は世界情勢の影響で、これまで使っていた赤土が手に入らなくなり、白土のみで表現しなければならない状況になりました。発色が限定され、カラーバリエーションを広げることが難しくなる中で、どうすれば作り手、扱い手、買い手の皆が喜ぶ形にできるか。限られた条件の中で可能性を模索したプロセスは、特に印象に残っています。
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どのように使ってもらいたいですか?
「MADOKA|円」という名の通り、車座になってみんなが笑顔になるような、温かい時間を過ごしていただきたいですね。 1人用は、心が少し寂しい時や、とにかく温まりたい時に。1.5人用は、パートナーと一緒に温もりを分かち合いたい時に。「心も体も温まってほしい」というのが、このプロダクトに込めた一番の願いです。冬だけでなく、オールシーズン、日々の暮らしに寄り添う道具として使っていただけたら嬉しいです。
― これからのものづくり
これからは、ただ飾るだけではない「使えるアートピース」を作っていきたいと考えています。僕自身、これまで道具を作り続けてきたからこそ、「持つ楽しさ」「眺める面白さ」「寄り添う喜び」を大切にしたい。アートピースの手前、そして道具の向こう側にある、新しい価値を形にしていきたいですね。